-胸部大動脈瘤・ハイブリッド手術 -


胸部大動脈瘤・ハイブリッド手術

高齢者に多い胸部大動脈瘤

大動脈は心臓から全身に血液を送る体内で最も太い血管で、弓状に曲がり背骨に沿って腹部方向に延びています。動脈硬化などで血管に弱い部分があると、血流の圧力で血管の壁が薄く大きく瘤状に膨らみます。この動脈瘤自体はほぼ無症状ですが、直径が60ミリを超えると破裂の危険性が高まります。破裂時には激しい胸の痛みや大量の出血で意識障害などに陥り、死亡率は8割を超えます。

ステントグラフトによる治療は手術後の負担が軽減される利点で知られています。ステントグラフトはポリエステルやフッ素樹脂製の人工血管に金網を編み込んだもので、直径10ミリ未満に折り畳んで太ももの付け根の血管などから挿入します。患部に届くと血管の太さに合わせて26ミリ~40ミリに開き、手術は2時間程度で終わります。

従来は人工心肺を使いながら動脈瘤を切り取り、人工血管に置き換える治療が主流で、手術は12時間に及ぶこともありました。翌日以降も集中治療室で数日間管理され、手術後から退院まで最低10日は必要でした。患者の中心は高齢者で体力も低下しており、手術が難しいケースも多かったです。

そこで考えられたのが、ステントグラフトと呼ばれる人工血管を患部に置く治療に、バイパス手術を加えた「ハイブリッド(混成)手術」です。


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ステントグラフトとバイパスの組み合わせハイブリッド手術

ハイブリッド手術は、弓状に大動脈が曲がる「弓部」にできた大動脈瘤に行います。弓部周辺は、脳や腕につながる左総頸動脈(ひだりそうけいどうみゃく)、左鎖骨下動脈、腕頭動脈の3本の血管に分岐しています。ステントグラフトは、腹部大動脈瘤、弓部より下の胸部大動脈瘤の治療に既に使われていますが、弓部では枝分かれする血管をふさいでしまいます。このため人工血管で迂回路を作るバイパス手術を事前に行い血流を確保したうえで、ステントグラフトを挿入するこの手法が考案されました。

人工心肺は不要で、開胸手術が必要な場合もありますが、多くはわきの下や鎖骨部分の切開で済みます。手術は3~8時間で、翌日には通常の食事や歩行も可能です。そして治療には保険が適用されます。

大阪在住の80代男性は2000年に、心筋梗塞で入院した際、弓部の大動脈瘤が見つかりました。そして2008年には、受診した森之宮病院(大阪市城東区)で61ミリに肥大していることが判明しました。高齢や病歴などから通常の手術が難しく、男性はハイブリッド手術を受けることになりました。

両わきと頸動脈付近を切り、人工血管を縫いつけるバイパス手術も行った上で、左足の付け根の血管からステントグラフトを挿入しました。手術の8日後には退院した男性は、「翌日には普通に食事もできました。今は好きなお酒も楽しんでいます」と話しています。

同病院では昨年、胸部大動脈瘤の手術や治療を受けた患者約85人の8割がハイブリッド手術を受けています。男性の主治医の加藤雅明・心臓血管外科部長は「治療実績の分析が今後必要ですが、諸外国のデータからも手術時間や入院期間も大幅に短縮でき、合併症の危険性も低いです」と強調しています。


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森之宮病院心臓血管外科

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